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「木と手」

やさしさは、人の手から生まれる。

自分の命が終わるとき、この世で最後に食べたいものは何?と聞かれたら「おにぎり」と答えるだろう。幼い頃、母親が握ってくれた「おにぎり」のあの美味しさは何なんだろう?

この現代ではコンビニやスーパーにいけば「おにぎり」はいつでも食べることが出来る。私はあらゆるところでおにぎりを見つけると自然と手が伸びてしまう。頭の中に残っているあの母のつくってくれた美味しいおにぎりの記憶が蘇ってくるからだろう。

もちろん、コンビニのおにぎりも美味しい。しかし記憶の中にあるあの「感じ」と何かが違う。もしかしたら母の手から特別な何かが出ていたのだろうか?いくら考えても、その答えは謎のままだ。

木に感謝し、木を生かす。

私の叔父は宮大工で神社の棟梁をやっていた。学生時代ずっと叔父の手伝いをしていたこともあり木はとても身近な存在だった。叔父は木が大好きで全国を飛び回りその木を見て神社に使う材料を選んでいた。「どうだ、この木は素晴らしいだろう!」誇らしげに話している姿は子供がオオクワガタを見つけた時のように誇らしげで無邪気だったのを思い出す。

そんな叔父も病に倒れ65歳という若さでこの世を去ってしまった。病気になって身体が思うように動かなくなってから全国から集め大切に保管していた木材を使い、この素晴らしい木たちで一生使える無垢材の家具をつくりたい。と最期まで集めた木の使い道を考えていた。最後まで木を愛し、大切に想っていた叔父からは「木も生き物、性格も表情もみな違う。人と同じようにその子に最も適した使い方で残してあげる事が大切である」そんなことを学んだ。

どこかの番組である料理人が言っていた。「素材に感謝し、その素材の持つ良さを限りなく引き出す事が私の仕事である」と。私は自然と亡くなった叔父の顔が浮かんだ。

木というものは、人の手によりどんな形にも変えることが出来る。薪となって人々を温めてくれる木、テーブルとなってその家族団欒を支えてくれる木、家の柱となり大切な家族を守ってくれる木、椅子となり人々を休ませてくれる木、そして日差しの強いときは木々の下に日陰を作り人々を守ってくれる木。

木というものは、古来から人々に寄り添い、守ってきてくれた神様なのかもしれない。

みんな違って、みんないい。

いのりオーケストラには現代日本のデザイン100選にも選ばれた「森の位牌」という作品がある。これは、ある作家との出会いから始まり私たちがより木という存在と深く関わっていくきっかけとなった作品である。

その作家の作品は一つ一つが木材もカタチもすべて違い、並んだ姿を見てまるで人間の顔のように個性を持っていた事に深く感動した。私には宝石のように見えたのだ。その時は一つだけ選ぶことが出来ず、あれもこれも欲しくなってしまい、何十個も購入し持ち帰った。それを並べて眺めているうちに木というものは世界中でいったい何種類あるんだろうか、そんな事を調べていくうちに木というものの魅力にとりつかれていった。

「自分もこんな作品をつくってみたい」その衝動を抑えきれずすぐさま、その作品をつくっている作家に連絡をした。その作家との出会いにより、いのりオーケストラの作品つくりは更にマニアックな方向へ進んで行ったのである。

私はたくさんの事をその作家から教えてもらい、全国さまざまな場所へ珍しい木を探しに一緒に連れて行ってもらった。木との出会いも一期一会、入手困難な木に出会えた時の喜びは何とも言えず本当に楽しかった。それは子供のころのクワガタ取りに良く似ていた。小学生のころ、弟と裏の山へクワガタ取りに行き夢中になりすぎて二人で200か所以上も蚊に刺されて母親に怒られ、二人でキンカンを塗りあって顔を歪めあった記憶が蘇った。あれ、なぜかめちゃくちゃ染みるんですよ。。。

話がそれてしまったが、そんなこんなで約5年の月日をかけ、約200種類の木を集めることが出来た。そして誕生したのが「森の位牌」である。

主役は、職人である。

いのりオーケストラの作品の中心にはいつも職人がいる。プロダクトというのはやはり職人が主役である。

心通う職人無くしてはいのりオーケストラの作品は生まれない。職人は暑い日も寒い日もコツコツコツコツとものづくりに励んでいる。私たちが要求する仕事のクオリティや希望は正直「うるさい」。

これは最近耳にした話なのだが、普通は30個の商品をつくるのに0.5㎥の木材を仕入れるとすると、いのりオーケストラの商品を作る場合はその倍の1㎥を仕入れないといけないのだそう(ごめんなさい)

なぜなら、、、要求があまりにも細かいからだ(汗)そんな私たちのわがままに付き合ってくれる職人は正直少ないのではないだろうか。自分でもこれだけ色々な事を要求すればほとんどの人が嫌がることくらい想像がつく、、、。

作品を手にするお客様のお顔を浮かべながらモノをつくってくれる職人たちと一緒に仕事を出来るという事は私たちにとってどれだけ幸せな事か。改めて感謝申し上げたい。

手仕事の中にある「やさしさ」

今回、とある密着取材を受けながら職人たちの仕事を撮影する事になった。ファインダー越しに目に入ってくる職人の真剣な眼差し、製作現場の張りつめた緊張感、そして一目で丁寧に扱っているとわかる材料の置き方まで、改めて職人たちがどれだけ商品を大切に扱っているのかが伝わり胸が熱くなった。

お客様にとっての大切な供養具。職人が私たちと同じ意識でものづくりをしてくれる事は「いいものをつくる」為に必要不可欠な事。

そして完成したものの細部を見た時にどれだけの時間を掛けて仕上げたのだろうか。それは私の想像を遥かに超えるものなのだろう。

モノが溢れた現代、安くて綺麗なモノはたくさんあるだろう。そしてもっともっと技術の高い職人がつくる複雑なつくりのモノもあるだろう。

しかし、優しい人の手でつくられるもの。いのりオーケストラの理想とするものづくりは、ここに尽きるのだと思う。それこそが「お母さんがつくったおにぎり」の美味しさの謎なのかもしれない。

「木と手」

大切なものはいつも目には見えない、でも人はどこかで感じるもの。そう信じている。

いのりオーケストラ 代表 菊池

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